田村亮美さん、通称あきさん。茅ヶ崎市在住。夫と22歳の長女、20歳長男、高校2年生になる次女、そしてあきさんのお父さんの6人家族。保育士歴23年の経験を生かし、2023年2月よりママたちがゆっくりできる場所を作りたいという思いから自宅にて「あきSuNち」を始める。あきSuNちはお母さんが子どもと一緒に遊んだり、制作をしたり、お腹いっぱいご飯を食べれる場所だ。
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あきSuNち訪問記
あきSuNちは、あきさん家の“匂い”がする。
臭いわけではない。しかしジャスミンやラベンダーのようなフローラルの香りでもない。
それは“あきさん家”の匂いだ。
なぜなら、そこはあきさんこと、田村亮美さんとその家族が暮らしている場所だから。
幼い頃に、友達の家に遊びに行くと、必ずその家の匂いがしたことを思い出す。
あきさん家は、そんな友達の家に遊びに来たような、実家に帰ってきたような。
どこか懐かしくホッとする匂いがするのだ。
玄関では看板犬のぶーちゃんがブンブン尻尾を振ってお出迎え。
「こんにちはー」と声をかけると、奥から「はーい」とあきさんの声が聞こえてくる。
そしてうちの坊を見るなり、「うわー!よく来たねー!!」と、元気いっぱいのハグが待っていた。
そう、あきさんはとにかく元気だ。生命力というか、パワーが全身から溢れている。
この日、8ヶ月になる坊と訪れたのは『ベビー1日ゆっくりあきSuNち』
10時半になると赤ちゃんを連れたお母さんが、あと2組やってきて、今日は3組でスタート。
月齢はみんな7ヶ月〜8ヶ月くらいのベビー達。元気なあきさんにみんな釘付けである。
赤ちゃんとお母さんが一緒に遊べる体操や、8ヶ月くらいの赤ちゃんが好きな紙コップを使った風車を工作を・・・
したものの、出来上がったおもちゃはあっちでむしゃむしゃ、こっちでむしゃむしゃ。
キッチンまで冒険に出かける子や、作ったおもちゃよりボールに興味津々の子。
みんな自由だが…、「いーのよ、それで」と言うあきさん。
お母さん達もリラックスした雰囲気で、ゆったりした時間が流れる。
頃合いを見て、お母さんは肩こり解消のためのツボを押したり、体操をした後、それぞれに持ってきた写真を使って、スクラップブッキング作り。
スマホに眠ったままの大量の写真を、いつか子ども達と見返すことができる形で残して欲しいというのが、あきさんの願いだ。
旅行に行った時などの思い出は、食べたものや、見た景色も一緒に残すして見返せるようにしておけば、何年経ってもその時の情景が蘇る。そんな風に思い出を形にして残すことができたら、家族の記憶は色褪せないのだろう。
そうこうしている間に、お待ちかねのランチタイム。
この日はたっぷりの有機野菜に、キッシュや、土鍋で炊いた温かいご飯…。
あきさんと、テスト期間で早めに帰宅した次女も一緒に食卓を囲む。
「今日はやばい、まじで寝れない」「えー!そうなの」なんていう親子の会話も聞こえてきて、いつか訪れるだろう未来の姿をちょっと想像したりしながら。
子ども達も、それぞれ持ってきたご飯と共に、あきさん家のお味噌汁やおかずをちょっと拝借。子ども用に別でおかずを作らなくても、大人が食べているものの中から食べられるものを少し分けてあげればいい。あきさん家での離乳食の考え方はとても、お母さんに優しい。
お腹いっぱいになった後、子ども達はぐっすり。
その間、親は子育てトークに花が咲く。保育園のこと、離乳食のこと、これからのこと・・・。
3人の子どもを育てた子育ての先輩でもあるあきさんが、そんな悩みを受け止めつつ、大丈夫大丈夫と背中を押してくれたり。
そう言われると、なんだか「まぁ大丈夫か」と思えてきたり。
子ども達が起き出す頃には、一応14時のはずだった終了時間はとっくに過ぎていたのだが・・・。
「いーの、いーの」「それでいーの」それがあきさんの口癖だ。
「なんだかお腹いっぱいで、今日は時間に追われることもなく、ゆっくりしたなぁ・・・」と思いながら、あきSuNちが終わっていた。
きっと、あれをしなきゃいけない、これもしなきゃいけない、からひと時解放されて、ゆっくりご飯を食べて久しぶりに家族以外の人と話ができたからだろう。
あきSuNちは、お母さんを“◯◯しなきゃいけない”から解放してくれる場所だった。
親の変化が分かる保育士だった
昔から、子どもが好きだったというあきさん。
学生時代は、キャビンアテンダントに憧れ、保育士になるか迷っていた時期もあったそう。
しかし、やっぱり子どもに関わる仕事がしたいと、短大を卒業し保育士に。
長く保育士を続けている中で、あきさんは送り迎えに来る親の変化によく気が付くタイプだったという。
「昨日、元気でおはようございますって言ってたのに、次の日むっちゃ暗い顔していたりとか。どうしたの?って聞いたら、”ハッと、私具合悪かったんだ”って気づいたり。“ちょっと病んでたから”とか言ってくれる人もいて…」
保護者の変化には敏感に気づき、声をかけるようにしていたというあきさん。
ある時、シングルマザーで少し家庭での子育てが心配なお母さんがいて、保育士達と話し合いの場をもったことがあった。
その時、最後のぽろっと、あきさんにだけ言われた言葉が今も胸に残っている。
“何がわかるっつてんだよ”
そのお母さんは、その後あきさんには心を開いて話をしてくれるようになったが、
保育園の先生という立場上、園児のお母さんと個人的な関係を持つには限界があった。
更に、園児が卒園してしまうと、その後関係を持ち続けることは難しい。
「卒園して、その後育児って大変になる。今はまだ、右向いてって言ったら右向いてはくれるけど、そのうち左向くようになるし、もう口出しできなくなる歳になっていくし。
本当にお母さん達がつまずいた時に、ふっと思い出してくれる場所があればいいなと思って・・・」
あきさん自身、3人の子を持つ母として、たくさん悩みながら子育てをしてきた。
長男は高校生の時に、やんちゃしていた時期があり、あきさんは自分の子育てに自信が持てなくなり、涙した日々もあったのだという。
いつか、卒園のない保育園を…、お母さんも子ども達もいつでも戻ってこれて、ちゃんと繋がっていられる場所を作りたいという思いは、保育士を続けながらも次第に大きくなっていった。
大怪我、勤めていた保育園を休職
そんな思いを温めながら3人の子育てが一段落した2022年11月、あきさんは保育士を続けながら、あきSuNちをスタートさせる。
初めはレンタルスペースを借りての実施だったが、もっと家庭的な雰囲気でママがゆっくりできる場所を作りたいと思い、2023年2月から場所を自宅にすることに。
「あきさんちのさんは、太陽(SUN)にすればいいじゃん!」と、長女が考案してくれた。
当時はまだ保育園での勤務も続けていたため、月に1、2回ほどの開催だった。
しかしその矢先、家族でスキーに出かけた際に転倒し、あきさんは前十字靭帯を切る大怪我をしてしまう。
手術をして3週間入院、その後も1年リハビリが必要で、働いていた保育園を長期休職することになった。
その期間が、あきさんの人生を大きく変えることになる。
妹の闘病を支えながら気づかされたこと
あきさんには6歳年下の妹、里佳さんがいる。
早くに母を亡くしていたため里佳さんはあきさんの家に里帰りして出産し、2人の子育てを頑張っていた。
しかし、4年前に長女を出産した後、乳がんが発覚。
毎年健康診断はしていたが、出産で1年受けていなかった翌年のことだった。
手術や抗がん剤で治療をしてきたが、2023年に容体が急変。
急遽、入院することになり、休職中だったあきさんは毎日病院に通い、看病を続けた。
病室に子どもたちがお見舞いにくる時には、看護師さんが口紅を塗ってくれて、
“ママ綺麗よね” “私死ぬんじゃないし”
そう話していたのが、最期になったのだという。
抗がん剤治療で痛む中で、最後まで生きることを諦めなかった里佳さんが、あきさんに伝えてくれた言葉があった。
「“お姉ちゃんの仕事は、いい仕事って”言って、手をさすってくれたの。あの手の感触は忘れない」
実家に頼ることもできない中で2人の子育てを頑張り、わずか42歳でこの世を去ってしまった里佳さん。
あきさんは、里佳さんのように子育てを頑張っているお母さん達の助けになるような場所を本気で作ろうと決意する。
「だから、やれることをやろうと思って。いつ死ぬかわからないし、本当に。点が線になったというか。なんでこんな大怪我したんだろうと思ったんだけど、自分の人生変わりなさいっていう意味だったんだろうと思うし。仕事を長期で休めていたから、妹を看取ってあげられた。それもターニングポイントになって。人のために生きていこうと思った。」
そして里佳さんを想いながら、出会うお母さん達に対して強く願っている。
「若い人でも、どうか家族や大切な方のために、乳がん検診と子宮頸がん検診には行ってほしい。
見えない部分なので、手遅れになる前に」
色々なお母さんが笑っていられる
場所をつくりたい
2023年の12月、あきさんは勤めていた保育園を辞め、あきSuNちは更にパワーアップ!
色々なお母さんのニーズに応えたいと、様々なプランを作った。(価格は2024年5月時点)
■1日ゆっくりあきSuNち
→ベビークラスと、幼児クラスがあり、その日集まった子ども達にあわせて、ふれあい遊びや、工作をしたり、水遊びをしたり。その後、あきさんの手作り美味しいお昼ご飯を食べて1日ゆっくり過ごす。初回は登録料や保険代を含め、3時間半で3,500円。2回目以降は3,000円。
■プライベートあきSuNち
→1日1組限定!
大勢が集まる場所だと、他のお母さんに気を遣ってしまったり、ちょっと疲れちゃったから子どもを見ててもらってゆっくりご飯を食べたいというお母さん向け。4時間で3,500円。親子でゆっくり来るのも、友達同士で来てもOKだ。
■あきSuNちのおにぎり会
→1日ゆっくりあきSuNちよりも時間は短くリーズナブルに。
おにぎりであれば、家族で握って食べることができ、食育にも繋がる。
土曜日に開催されているため、お父さんも来やすく、家族や兄弟で参加する人もいるという。
3時間で1,500円。大人1人追加は+500円、幼児+200円。
■離乳食教室「育むおうち」
また、あきさんと歯科衛生士と栄養士の3人で、離乳食講座「育むおうち」も定期的に開催。
アットホームな雰囲気で1人1人実際に離乳食を食べながら、アドバイスをしている。
■あきさんの愛情料理教室
離乳食の取分けも簡単にできる栄養たっぷりの料理法を伝授。参加費は3,500円でランチ&お土産付きだ。
実は、子宮頸癌になった経験があるあきさん。
食事から栄養をとることの大切さを感じ、薬膳マイスターの資格を取得した。
料理を作ること自体に疲れてしまわないように、簡単に、毎日続けられて、身体も心も健康になる“お母ちゃんの料理”を伝えている。
「お母さんが笑わないと、子どもも笑わないし、家庭も笑わないし。全部連鎖するから。
だからちょっと、ゆっくりしたいなと思う時に、来てもらいたいなと思うんだよね」
そして、あきさんはあきSuNちを飛び出し、ベビーシッターとしても働いている。
怪我や病気になった時に実家が遠く頼れないというお母さんからのSOSや、寝かしつけが上手くできないと困っているお母さんから呼ばれることもあるという。
困っているお母さんの具体的な助けになることも、あきさんがやるべきと考えている仕事だ。
夢はお母さん達が帰ってこれる場所をつくること
あきさんの夢は、あきSuNちに来ていた子ども達が大きくなっても、お母さん達がいつでもふと悩んだ時に相談しにきたり、いつでも帰ってこれる場所になることだという。
私は初めての子育てをしている。
坊はまだ1歳にもなっていないのに、日々成長するとともに悩みも更新されて、一体次はどんな課題がやってくるのかしらと、身構えている。
しかし、あきさんは言う。
「子どもが大きくなったらまた悩みは増えるし、その時その時に悩んでいることはある。
保育園や幼稚園だと卒園してしまったらその後お母さんと関わりを持つことはできないけれど、あきSuN家は悩んだ時や、何か話したいことがある時に、いつでも来て欲しい。あきSuN家に卒園はないから」
なるほど。まだ1歳にもなっていない子の子育て…一体いつまで続くのか分からないけれど、とりあえずこの先も未知の課題にぶつかり続けるのだろう。
そんな時に、ふと相談できる、そんな場所としてあきSuNちがあってくれると、
ひとりで子育てを頑張り過ぎないで良いと、本当に思えてくる。
だから、茅ヶ崎にあきSuNちがあって良かった。
『あきSuNち』のInstagram