すぎもとしょうこさん、藤沢市在住。4歳の息子と0歳の娘、会社員の夫の4人家族。
電通にてコピーライターとしてテレビCMなどを制作しながら、ママ友と共に絵本をつくり、2022年1月に第8回絵本出版賞優秀賞を受賞。2023年10月に『もぐちゃんず』(発行:みらいパブリッシング)を出版した。
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『もぐちゃんず』との出会い
絵本『もぐちゃんず』の著者であるしょうこさんとは、小堺友美さんのベビーマッサージ教室で出会った。
たまたま参加した教室で一緒だったしょうこさんは、ぷっくりした可愛らしい女の子を連れた、明るくよく笑うお母さんだったが…笑顔の奥に芯の強さが垣間見えるような…気がしたような、気もする。笑
ベビーマッサージのあとのお茶タイムで、「実は絵本をつくっているんです!」というお話をされていて、そこで初めて絵本『もぐちゃんず』に出会ったのだ。
まだ4ヶ月くらいの赤ちゃんを連れながら、絵本を・・・?と驚いた。
どんな絵本なんだろう…と、絵本を開いた1ページ目から、わたしはすっかり引き込まれてしまった。
もぐちゃんずというもぐらたちがやっている、森のおいしいレストランが舞台のお話なのだが、1ページ目の絵がとにかく素敵なのだ。
そこにはレストランで思い思いに過ごす動物たちが描かれている。
プロポーズをしている?羊のカップル、仲良く乾杯する犬と猿。
それぞれの動物たちはどんな関係性なのかな?どんな会話をしているんだろう?
などと、物語のストーリーから外れて想像するのも楽しい1枚だ。
物語は、おもてなしが自慢のもぐちゃんずのレストランに、森で有名な“おいしいものはかせのぶたおさん”がやってくる。
もぐちゃんずは、張り切って料理をつくるのだが…色んなハプニングが起こり、アイデアとチーム力で解決していくというストーリー。
ページをめくると、おいしい料理をつくるまでの歌があったり、お料理の絵がどれもとてもおいしそうだったり。
めくるたびに楽しめる仕掛けがいっぱい。
読み終わる頃には、すっかり『もぐちゃんず』のファンになってしまい、1冊購入させていただいた。
8ヶ月の坊にはまだ早いかもしれないとも思ったが、成長とともに読んでみると、そのたびに違う発見がありそうで、楽しみだ。
しかし、育児で忙しい中なぜ絵本をつくろうと思ったのか…そもそも絵本ってどうやってつくるのかしら…絵本制作の舞台裏を、たくさんお伺いすることに!
絵本をつくろうと思った訳
「絵本をつくろうと思ったのは、息子の貫太が1歳10ヶ月の時だったんです」
当時、初めての子育てに悩みがつきなかったというしょうこさん。
特に離乳食が進まず、たくさん食べている周りの子と比べて落ち込む日々だったという。
“どうして食べてくれないんだろう、自分のせいなんじゃないか・・・。
周りのお母さんがすごく良いお母さんに見えて、自分が母親でこの子は幸せなんだろうか”
そんな負のループに入ってしまっていた。
だが、夜の絵本の時間は特別で、2人で楽しめたのだという。
「絵本って、横に並んで寄り添って、一緒にその世界に入っていくみたいな感じがあって、その絵本に一緒に没頭できるのが好きで」
広告会社の電通でコピーライターとして働いてきたしょうこさん。
CMのカット割やストーリー、CMソングを考えてきた経験もあり、お話を考えるのが好きだった。
“自分がつくった絵本を貫太が読んでくれたら、どんな気持ちになるんだろう・・・?”
そう思ったのが、絵本づくりのきっかけだったという。
ストーリーを考えるのが好きだったとはいえ、キャラクターをデザインしたりするのはあまり経験がなかったしょうこさん。そこで、地域の子育てイベントで知り合ったママ友のほそのみきさんに相談することに。ほそのさんも、同じ男の子を育てているママで、広告会社で働きながらイラストやグラフィックのデザインをしていた。
2人で、息子のために絵本をつくろう!と意気投合し、絵本づくりがスタート。
せっかくやるなら、何か締め切りが欲しいということで、絵本コンテストへの応募も目標にすることに。
そうして出来上がったのが『ぶーたんのしりとり』という絵本。
こぶたの兄(ぶーたん)がお友達の家に遊びに行くまで、弟としりとりをして言葉遊びを楽しむストーリー。最後は盛り上がってきたところでぶーたんがお友達の家に行く時間に。そこで、寂しがる弟と仲良く一緒にお出かけをするという結末だ。
それぞれ仕事や育児、家事などで忙しくする中、こどもを寝かしつけたあと、夜な夜なLINEでやりとりをしながら3ヶ月足らずで仕上げたこの絵本が、第8回絵本出版賞優秀賞を受賞。
出版社から声がかかり、全国出版に向けて本格的に絵本づくりがスタートすることになる。
しかし、最初に編集者さんから指摘されたのが、
「しりとりのルールが対象年齢の3歳児に対して、少し難しいのでは…」ということ。
「しりとりをテーマとした絵本だったので、軸のところを変える必要があるとなって…
じゃあもう、ストーリーを変えようということになったんです」
出版まで2年…
楽しんでつくることを大切にした
出版に向けて、イチから絵本づくりをスタートさせることにしたしょうこさんと、ほそのさん。その時に2人で約束したことがあったという。
それが “楽しんでつくろう” ということ。
「つくるのが苦しい、つらい、みたいになったら多分いい作品はできなさそうだなと思って。
自分たちが楽しんでやろうというのは、大事にしていました」
その後、いくつか物語を試作しながら、
こぶたの兄弟が冒険に出かけて、もぐらのレストランに迷い込むというストーリーの
『もぐもぐブラザーズ』が誕生した。
しかし・・・「ちょっと要素が多くて複雑になってしまって、もぐもぐブラザーズではサブキャラとして登場していた“もぐら”が結構可愛いんじゃないか?という話になって…」
思い切って、最初の主人公だったこぶたの兄弟を削ってみることに。
そうして誕生したのが『もぐちゃんず』だった。
こうしてもぐちゃんずの制作が始まり、絵本の出版の話が決まってから、出版まで2年の歳月が経っていた。
その間、ほそのさんと最初に約束した「楽しんで制作しよう」ということができなくなってしまい、1ヶ月ほど連絡を取らなくなった日々があったという。
実は、絵本をつくる途中、しょうこさんのお腹には2人の赤ちゃんがいた。
しかしお腹の中で一緒に過ごした赤ちゃんは、この世で生きていくことができなかった。
一度の流産、そしてその後、死産を経験したしょうこさんは、絵本をつくることを楽しむことができなくなってしまったのだ。
その時、しょうこさんとほそのさんは、無理に制作を進めることはせず、一旦ストップすることにしたのだという。
「当時は一日一日を過ごすのに精一杯でした。ほそのさんが“ゆっくりいこう”と言ってくれて。時間が経つにつれて、赤ちゃんと過ごした大切な日々を絵本というカタチにして残したいと思うようになっていきました」
しょうこさんの絵本制作への思いは強くなり、再スタート。
長男貫太くんのためにつくり始めた絵本は、いつしかお腹の中にいた赤ちゃん、そしてその後生まれてくる娘の花ちゃんへの思いも重なってつくられていった。
しょうこさん流
ストーリーの生み出し方
可愛らしくて、楽しめる仕掛けがいっぱいの絵本『もぐちゃんず』。
しかし、こうした絵本のストーリーはどうやって生まれるのだろう。
「わたしの場合は、絵本を通して何を伝えたいかを決めてから、主人公について考えます。主人公はどんな性格で、口癖は何で…という感じで」
キャラクターができたら大まかなストーリーをカット割のような形でしょうこさんが考え、それをほそのさんに共有・・・、ほそのさんが具体的にキャラクターを描いていき、2人で細部まで調整していくというまさに二人三脚の作業だ。
ピザやパエリアなど、出てくるおいしそうな料理は、実際の料理をインターネットで検索してイメージに近いものを一つ一つ探しては擦り合わせてつくっていったという。
更に、主人公のもぐちゃんのキャラクターができるまでは、毛の色や鼻の色、パンツの色を何パターンも考えて検討を重ねた。
登場するもぐちゃんず達にはセリフがない子も含めて1匹ずつ設定があり、表情も相談しながらつくった。
「お互いに自分のこどもに読んで欲しいと思ってつくっていたので、全然妥協できなくて笑」
表紙は、初登場のもぐちゃんというキャラクターがしっかり見えて、もぐちゃんずがたくさんいて楽しい雰囲気が伝わるものに決定した。本当に細部にまで2人のこだわりがたくさん散りばめられた作品だ。
『ピンチをアイデアで乗り越える』を伝えたい
こうしてできた絵本は、なんと貫太くん4歳の誕生日に著者用の見本が届き、最高の誕生日プレゼントに!
「本人も、絵本をつくっていることは知っていたので、今絵本どうなってる?と気にしていて。出来上がったものを見てすごく喜んでいました」
最初に読んだ時の感想は・・・
「ピザがおいしそうだったよ」
ピザが大好きだという貫太くんらしい感想だった。
しょうこさんには、作品を通じて貫太くんに伝えたい一つのメッセージがあるという。
それが “ピンチはアイデアで乗り越えられる” ということ。
「一番大切なのはその物語で何を伝えたいかをシンプルに考えることだったんです」
もぐちゃんずのストーリーの中でも大きなピンチが訪れるが、みんなで話し合い、なんとも愉快に解決している。
子育てを楽しくするための、
ひとつのアイテムに
絵本を完成させたしょうこさんは地域の子育てイベントなどで積極的に読み聞かせをするなど、多くの親子に読んでもらうために活動している。
この日は、しょうこさんとほそのさんが出会ったという、辻堂にあるYU-ZUルームで多くの親子がもぐちゃんずの世界に夢中になった。
物語のオチで、もぐちゃんずたちが「ズコー」とズッコケる場面があるのだが、ズコーは制作当時、貫太くんの口癖だったのだという。
「わたし、忘れ物がすごく多いんですよ。保育園に行く時も何度も忘れ物をしてうちに戻ってきたりして」
そんな時は、“また忘れ物しちゃったズコー”という感じで、日々過ごしているという。
離乳食のことで悩んでいた時の自分を振り返り、そんな風にもう少し気軽に考えられていたらな…と思うしょうこさん。
子育てに悩むお母さんたちが、こどもとの日常のコミュニケーションに「ズコー」を取り入れてもらったりして、もっと気楽に考えるきっかけになったらという願いが込められている。
仕事と、夢と、子育て。
いちばん大切なものは・・・
しょうこさんに今後の夢を伺ったところ、もぐちゃんず2も、他の作品もつくってみたいと創作意欲に溢れていた。
もぐちゃんずは、なんと今年韓国進出をする予定なのだそう。
韓国でも多くの親子に読まれ、しょうこさんやほそのさんの思いが届いてくれたらいいなと思う。
仕事と、育児と、自分のやりたいこと…、全部叶えられたらとっても良いけど、簡単ではない。しょうこさんに優先順位をつけていたりするのか聞いてみた。
「それは…1番は断然、こどもです。絵本も、こどもが起きている時にはあまりやらずに、寝てからやるというのは決めていました」
自分にとって一番大切なものは何かをしっかり決めておくことは、日常の些細な1コマ1コマを過ごす指針にもなりそうだ。
自分がつくったストーリーを息子が読んでくれる。その時、自分はどんな風に思うんだろう…そんな素朴な思いと、夢から始まったというしょうこさんのお話。
実際に自分がつくったストーリーを息子が読んでくれるのはどんな感じだったか聞いてみたところ。
「むっちゃ感動しましたよ!細かい部分にも反応してくれるのがすごく嬉しくて」
たくさんある絵本の中でも、貫太くんの1番のお気に入りは『もぐちゃんず』
何度も読み返しては、「このピザおいしそうだね、この子はさっきのページと違うことをしてるね…」など読むたびにたくさん発見をしてくれるのだそう。
こどもがストーリーや、キャラクターへのこだわりに気がついて、反応してくれることは、とっても嬉しいに違いない。
離乳食を食べてくれない…そんなピンチをきっかけに絵本をつくり始めたしょうこさん。
まさに、ピンチをアイデアで乗り越えていたのは、しょうこさんの人生そのものだと思う。
もぐちゃんず 公式Instagram HP(みらいパブリッシング)